小説・第3話

高校1年の冬、僕は女の子のことをちっとも分かっていなかった。今は分かっているかと言われると、心許ないが。
その頃興味があったことといえば、詩を書くことや、曲を作ること。リコは好きな彼とつきあっていた。リコにあっけなく振られてから僕は、女の子には少し臆病になっていた。
昼休みになれば、仲のいい男の子達とトランプに興じ、休み時間は気が向いたらギターを弾いて、女の子の輪に囲まれたり。そんなこんなで、僕の高1は過ぎ去ろうとしていた。

自分で作った歌などをぼちぼちと披露していると、噂が広まったのか、演劇部から曲作りの依頼がきた。驚いたが、新入生歓迎公演でミュージカルを上演するとのこと。
演目はアンデルセンの「人魚姫」。台本を見せてもらって、これならできると思い、引き受けることにした。原作も読んで、僕なりに歌詞のイメージをふくらまし、歌う役者に合わせて、キーの高さを調節した。最終的に、テーマソングも合わせて、5曲完成させた。
裏庭の隅っこにある、古ぼけた建物の2階で、僕は演劇部の面々に、曲を披露した。歌は評判がよく、採用となった。その頃、僕はまだバンドを組んでいなかったので、一人でギターを演奏して、カセットに伴奏を吹き込んだ。
公演当日は、他の高校から何人か見学に来ていたが、肝心の新入生はいなかった。劇の最後では僕もギターを持って舞台に上がり、テーマソングをアップテンポで歌った。これを機に、僕は演劇部に出入りするようになった。

演劇部は、僕にとって不思議なところだった。男子が部員の半分もいる。僕は、演劇は女の子のするものだと思っていた。そして、男の子と女の子が仲がいい。まるで同性同士の友達のように、男女でジュースのカップを回し飲みする。お互いに、役柄の名前で呼び合っていた。これまで付き合ってきた子達とは、全然違っていた。
ある時、演劇部でケーキの食べ放題に行くからと誘われた。男がケーキ?って思ったが、男の子の部員達は楽しそうにしていたので、試しについていくことにした。
僕は案の定、ケーキ2個でギブアップしてしまった。みんなぱくぱくとケーキを平らげた後、帰り道では歩きながら発声練習をし始めた。ーー”アメンボ赤いなあいうえお 浮き藻に小エビも泳いでる”……
「ヒビキ君も、やりなよ」って誘われたが、僕には道の真ん中で、ギターも持たずに大声を張り上げるなんて、とうていできなかった。

でも次第に、演劇部は僕にとって、居心地のいい場所になっていった。そのままの僕で、ウエルカムという感じ。オープンで、部室にはいつも部員以外の子達も出入りしていた。僕の高校時代で大切な友達は、演劇部との出逢いからできた。

え? 前置きが長いって?
あの時、僕が吸っていた空気感を伝えないと、ユミと恋をした感じがわからないかなって思って。
OK、次はいよいよユミとの出逢いを書くね。
(続く)

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