「博士の愛した数式」

最近、日本映画のDVDを観ることにはまっている。
ハリウッド的世界とは違う、小さいけど静かで心温まる世界。
私小説って日本にしかないジャンルだと聞いたけど、そんな感じで、日本でしか作れない映画ってあると思う。
そんなわけで、この映画もいい意味で、日本的でよかった。

博士の愛した数式
博士の愛した数式

posted with amazlet on 06.07.23
角川エンタテインメント (2006/07/07)

実は僕は数学が大の苦手。
でも、そんな僕でも、数学の向こうにある思想というか、大きな世界をかいま見て、もう一度勉強したいと思ったほどだった。


もちろん、この映画の主題は、数学のおもしろさを伝えるものではない。
交通事故で記憶が80分しか持たない後遺症をもった元数学者と、その義理のお姉さんとの許されざる愛の物語をベースに、博士のところにきた家政婦と息子との心の交流を描いたものである。
有名な映画なので、詳しくは書かないが、僕が思ったのは、いくら記憶が80分しか持たないでも、彼は彼なりに懸命に人間として生きようとしていること。
誰かの役に立ちたいと思っていること。
子ども好きの彼が、義理の姉との間にできた子どもを処分せざるを得なかったときの、深い悲しみと絶望感。
そういうものが、巧みな演出の中から、見る者の心に迫ってくる。
博士のもとに通う家政婦も、許されない愛で出来た子を産み、一人で育てている。
そういう意味では、ここに描かれている生き方は、対照的だ。
そんな親子二人を、慈しむ博士の姿は、記憶障害を持つものとは思えない。
人はどんな状況でも、その人の根源的なものは失うことはないのだろう。
そういう、人間に対する深い愛が感じられて、いい映画だった。
原作も是非読んでみたい。
さて、この映画で重要な役割を果たしているのが「オイラーの法則」。
e(iπ)=-1
ネピア数「e」の「iπ」乗が-1になるというもの。
この法則は、映画の中では生まれるはずだった子への深い喪失感を表すものとして使われるが、それが最後に博士によって、次のように書き換えられる。
e(iπ)+1=0
この「1」は何を表すのか。
ここに、この映画のテーマが凝縮されているのだろう。
お互いに何の関係もない「e」と虚数「i 」と円周率「π」。
それに何かが加わると、無になってしまう…
数学は世界そのものだと感じた。
それゆえ、この公式は「人類の至宝」と呼ばれているらしい。
この公式に関しては、映画の中で何の説明もない。
解釈は観る者に委ねられている…
そういう僕は…、まだ上手く解釈できていない。
実は、僕の父親は大阪の旧帝国大学の名誉教授。
工学博士でもあるので、今度公式の意味を教えてもらおう。
そういう、親子の会話を久しぶりにしたいなと、思わせる映画でもあった。

コメントを残す

メールアドレスは公開されません

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください