小説・第4話

僕はその頃、演劇部の仲間から「クール」だと言われていた。
「クール」って「頭がいい」とか「冴えてる」ってことじゃなく、「冷淡」だっていうこと。僕は人見知りだった。人と話すことはどちらかと言えば苦手で、一人の時間はもっぱらギターを弾いて過ごしていた。
仲間達が何かの話で盛り上がっていても、その横で「冷めた」顔して座っている。そんな男だった。彼らがそんな僕をそのまま「放って」おいてくれたおかげで、僕は「クール」なまま、問題もなく大きくなっていった。
僕達は交換日記をつけていて、そこには部員じゃないコも書き込んでいた。テーマはいろいろだったけど、「友情」や「愛」などについて、みんな自分の意見や思いを綴っていた。僕は一体何を書いていたのだろう。全く思い出せないが……。
学校や先生に反発するわけでもなく、人生に大きな不満があるわけでもなく、声高に歌いたい「主張」があるわけでもない。そう、僕は本当は「素寒貧」だったんだ。
                   ☆
僕達は時間があると、部室に何という理由もなくたまっていた。そして、とりとめのない話に花を咲かせる。時間の贅沢な無駄使い。その中で、僕の友達も少しずつ広がっていった。
演劇部にも新入生が入って、男の子の比率がぐっと下がった。僕達はすぐ仲良くなって、部活の終わりには、先輩・後輩で一緒に帰るようになった。僕達はいつもぐちゃっと通学路の坂道を下っていって、手紙の交換も頻繁にしていた。
手紙は休み時間にそっと机の上に置かれるか、友達の友達から渡されるか、直接に本人から渡されるかいろいろだったが、1日2〜3通になることもあった。書いてあることは、「今は英語の授業中。つまんない」といった類いのものだったが。その手紙が「これはどうやって開けるのだろう」というように「複雑」に織りこまれていた。折り方もいろいろあって、開け方が判明するまで、頭をかしげるものもあった。
手紙は男女の区別なく送り合っていたが、そのうちユミとの交換が多くなっていった。その頃になって、僕はようやくユミに気がついた。部室でわちゃわちゃしているとき、いつも僕の傍にいる女の子。
“Boy meets girl”、という感じじゃ全然なかった。そんな「ドン!」と落ちる感じじゃなく、振り向いたら、そこにいた。そして、気がついたら、僕は彼女のことが気になり始めていた。
僕の高校は服装が自由だったが、ユミは白のカッターシャツに、標準服の紺のスカートをはいていることが多かった。ボーイッシュな短い髪に、口元には八重歯、そして小さな胸。
彼女も詩を書くのが好きだった。手紙にも時々書いてあった。僕は彼女の感性にだんだん惹かれていった。そのうち、彼女と意識してしゃべるようになった。
演劇部で出会った最初の頃は、僕のことが嫌いだったこと。理由は聞かなかったが。また、放課後僕が後輩のレイナを自転車に乗っけて、送って帰っているのにやきもきしているとか。深い理由はなく、帰る方向がたまたま同じだったからだけど。ユミとは、帰る方向は正反対だった。かといって、帰る方向を彼女に合わせることをしなかった。なんでだろう、そんなことより、みんなと一緒にいる方が楽しかったからかな?
そんな感じで、僕達の「恋」はゆっくりと始まった。それが、高校の終わりまで続いて、たくさんのハートブレイクを残すものになるとは、その時の僕はまだ知らなかった。
(続く)

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