小説・第9話

ユミは僕に手紙を渡すと、そのまま消えてしまった。
僕はどうしていいのか分からず、しばらく立ち尽くしていた。

ようやく決心が固まり、僕は手紙を開いた。

<ヒビキ君、私、あなたのこと、ほんと好きだったよ。
でも、もう限界。あなたと一緒にいることに耐えられなくて。
こんな言葉使ってごめんね。正直、嫌悪感しか感じないの。

それに、私、好きな人ができて。一緒にコンサートした人。
久しぶりに、恋の気分を感じてる。

ごめんね、ヒビキ君。さようなら。 ユミ>

読みながら身体の力が抜けていくと同時に、すこんと胸に落ちた気がした。
ああ、もう終わったんだ。
実感として、納得できた。こういう終わり方をしてくれて、ユミに感謝だな。

その夜は、いろいろ思い出して、一睡もできずに朝を迎えた。

学校に行くと、ユミは新しい彼と一緒に廊下を歩いていた。とても楽しそうに話をしながら。
そうか、彼女はこういうのを求めていたんだ。
♪この頃 あなたは明るくなったみたい
 僕のいないところで微笑んで♪
自分が作った歌そのままじゃないか。
何してるんだ、俺。

自分のバカさ加減に悶々と過ごしていると、ある時、リコから呼び出された。
「これ」
と言いながら、リコは小さい紙包みを渡した。
?ってなりながら、中を見ると、小さい小物入れの袋が入っていた。
「私が作ったんだから」
リコは上目遣いに言った。
「そうなんだ。あ、でも……」
と言いかけると
「彼と付き合ってから、初めて他の男の子のために作ったんだから」
そんなことして、大丈夫なの?って、思ったが、リコはにっこり笑って、
「ヒビキ君のイメージで、ブルーのギンガムチェックにしたんだから。大切に使ってよ」
ありがとうって言う暇もなく、リコはクラスメイト達の中に紛れていった。

なんやかんやで、僕達は高校を卒業した。僕はいかに女の子を理解していないか、うちひしがれながら。
とりあえず合格する大学を受け、僕は大学生になった。
ユミと彼とは違う大学に進学したとか。そして、彼に新しい彼女ができたけど、ユミが別れたくないって言っている、って噂が流れてきたけど、僕にはもう遠い話だった。
(続く)

コメントを残す

メールアドレスは公開されません

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください