卒業の歌

もう今年の卒業シーズンも終わってしまったが、卒業式で歌う歌について、いろいろ考えさせられることが多かった。
自分自身の卒業式で一番思い出に残っているのは、高校時代。
僕の通っていた高校では、由緒正しく(?)式が進行していくのだが、いよいよ終わるときになって卒業生の一人から「待ってください! 僕たちの卒業式だから僕たちの歌いたい歌を歌わせてください!」と声が上がり、みんなで選んだ歌を歌うのが伝統になっていた。
何でも、学校主導の式に抗議する形で自然発生的に始まったのが、恒例になり、先生達もそれを受け入れてくれていた。
そういう意味では、民主的な空気があふれていた学校だった。
記憶に間違いがなければ、僕たちの時に歌ったのは五つの赤い風船の「遠い世界に」だったように思う。
その他に何を歌ったのかは、全く覚えていない。
さて、卒業式で歌われる歌というと、「仰げば尊し」がまず思い出されるが、皆さんは全部の歌詞をご存じだろうか?

仰げば尊し、わが師の恩。
教えの庭にも、はや幾年(いくとせ)。
おもえば、いと疾(と)し、この歳月(としつき)。
今こそわかれめ、いざ、さらば。
互いに睦(むつ)みし、日頃の恩。
別るる後にも、やよ、忘るな。
身を立て、名をあげ、やよ、励めよ。
今こそわかれめ、いざ、さらば。
朝夕(あさゆう)なれにし、まなびの窓。
螢のともし火、積む白雪(しらゆき)。
忘るる間(ま)ぞなき、ゆく歳月(としつき)。
今こそわかれめ、いざ、さらば。

世間では2番の「立身出世」的な歌詞が問題として、削除されて歌われているが、僕としてはそれよりも3番の「蛍の光」と対になっている部分が気になった。
卒業式では、たいていこの後に全員で「蛍の光」が歌われる。
そこで、その歌詞を調べてみると、驚くことがわかった。

ほたるの光、窓の雪。
書よむ月日、重ねつつ。
いつしか年も、すぎの戸を、
明けてぞ けさは、別れゆく。
とまるも行くも、限りとて、
かたみに思う、ちよろずの、
心のはしを、一言に、
さきくとばかり、歌うなり。
筑紫のきわみ、みちのおく、
海山とおく、へだつとも、
その真心は、へだてなく、
ひとつに尽せ、国のため。
千島のおくも、沖縄も、
八洲のうちの、守りなり。
至らんくにに、いさおしく。
つとめよ わがせ、つつがなく。

実はこの歌には3番と4番があったのである。
その内容は読めばわかるように、国を守るために身を捨てて尽くせというものである。
…知らなかった…。僕は結構この歌が好きで、感動して歌っていたのになあ…
でも、事実を知ることは大切。
卒業生が「仰げば尊し」で「身を立て、名をあげる」と歌い、それに対してみんなが「お国のためにしっかり尽くせ」と返す…
そういう役割の歌だったんだね。
今はその部分はカットされているとはいえ、根本に流れていた思想は無視できない。
現代にふさわしい、新しい「卒業の歌」が求められているのだろう。
そこで調べてみると、今一番歌われているのは、埼玉県の中学校の校長先生と音楽の先生が作った「旅立ちの日に」という歌だそうだ。
聴いてみると、混声2部合唱のなかなかいい曲。
歌詞を載せておくので、上記2曲と読み比べてほしい。
どっちが今の子ども達の心に寄り添っているだろうか…
旅立ちの日に     
小嶋 登:作詞 坂本浩美:作曲 松井孝夫:編曲

白い光の中に 山なみは萌えて
遥かな空の果てまでも 君はとび立つ
限り無く青い空に 心ふるわせ
自由を駆ける鳥よ ふり返ることもせず
勇気を翼にこめて希望の風にのり
このひろい大空に夢をたくして
懐かしい友の声 ふとよみがえる
意味もないいさかいに 泣いたあのとき
心かよったうれしさに 抱き合った日よ
みんなすぎたけれど 思いで強く抱いて
勇気を翼にこめて 希望の風にのり
この広い大空に夢をたくして
いま別れのとき
飛び立とう未来信じて
弾む若い力信じて
このひろい
このひろいおおぞらに
いま別れのとき
飛び立とう未来信じて
弾む若い力信じ
このひろい
このひろいおおぞらに

思春期の子ども達にとって一番大切なのは、やはり友達…
そして、自由であり、希望であり、勇気であり、未来であり。
そう、彼らの明日は国のためではなく、彼らのために開かれているべきなのだ。

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