二人の過ち

本当は平中悠一の「She’s Rain」のビデオがあればレンタルするつもりだったのだが、見つからず、ふっと他の棚に目をやると、次のDVDが目にとまった。

緑の街 DVDスペシャル
緑の街 DVDスペシャル

posted with amazlet on 06.02.26
ハピネット・ピクチャーズ (1999/05/25)
売り上げランキング: 33,925

僕の好きな小田和正氏の監督第2作目。
1作目の「いつかどこかで」はもちろん映画館まで見に行ったのだが、たいした完成度ではなく、軽い失望を感じたのを覚えている。
だから、「緑の街」は公開されたのは知ってはいたが、見に行こうとまでは思わなかった。
でも、今回見つけたのは何かの縁だろう。
とりあえず、レンタルしてみることにした。


主人公のミュージシャンである夏目が「映画を作る」と言いだし、畑違いの世界へ飛び込み、周囲に反目されながら、自身も挫折しつつも映画を完成させていく…
小田和正氏の自伝的映画と言えるだろう。
しかも、ストーリー自体が夏目の思い出を映画にしていくものであり、新田という人物に自身を演じさせ、それを映画にしていくという構造になっている。
その上、新田の恋人役に、自分のかつての恋人である一ノ瀬を起用するという…
劇中劇のようになっていて、映画の中で映画を作るという、しかも自分のかつての思い出をかつての恋人に演じさせる
セットとして出てくるカフェは「いつかどこかで」で使われていたものと、ほとんど同じ
そこに、小田氏自身の曲が流れてきて、それを夏目役の渡部篤郎が歌い、また新田役の河相我聞が歌うという
言葉で説明するのは難しいが、この2重3重の構成がうまくいっていて、作品に何とのいえない奥行きと感傷性を与えている。
前作を乗り越える出来になったのではないだろうか。
小田氏の才能を感じた。
なかなか音楽で成功しない自分と違って、どんどん女優として成功していく恋人に嫉み、彼女を捨ててしまう
その後、自分の音楽が認められ始めるが、彼女は女優をやめてしまう
それは自分のせいだとして、彼女の謝るため再会するという展開だが、再会の場面での一ノ瀬が言うべき台詞が、この映画のテーマの中核である。
台詞の再考を求める一ノ瀬に対して、夏目は自分が女優をやめさせたのだから、彼女は傷つけられていて、新田を許せるはずはないという。
それに対して一ノ瀬が「思い上がらないで! 私はそんなに弱くないよ!」と反論するところが、ぐっと胸に迫った。
そうだね、夏目の言い分は結局強い者、勝った者が負けた者に慈悲を与えているに過ぎないもんね。
スタッフとの確執から中断した映画作りを再開し、もう一度先の場面を取り直したとき、夏目は一ノ瀬に彼女の思いをそのまま語らせる。
ここがこの映画のクライマックスだ。
夏目が最初に書いた台詞とは大きく違うその言葉に、思わず涙した…

私間違ってた
あれでよかったんだよ
そう思ったら、あのときの二人のこと
素直に好きになれた
遠く離れてしまって
もう会えなくなった二人のことも
やっぱり、会ってよかった
「時」はそんなに意地悪じゃないね

どちらかが一方的に悪いなんてことは、きっと生きていることの中にはそんなにないんだ
あのとき、あの言葉を選んだのは僕だったんだし、あの道を選んだのは君だったわけだし
だから、こうなったのは「二人の過ち」だったんだよ
自分が傷つき、後悔しているのと同じくらいに、相手も傷つき後悔している…
それに気づいたとき、初めて前に進んでいけるのだろう。
そういう意味では、これは夏目と一ノ瀬の、それぞれの成長の物語だろう。
ところで、一ノ瀬役の中島ひろ子は僕の好きな女優だ。
美人とはいえないけど、演じているときの美しさは、生まれながらの女優を感じさせる。
櫻の園」での演技に脱帽したけど、やっぱりうまいなあ…
彼女を起用したのは、小田さんの希望だったんだんだろうか。

2 個のコメント

  1. こんばんは。
    先日のエントリで、ピンと来ていたのですが、この映画、私も見て良かったと思っている映画の一つです。
    一作目に失望して、期待していなかった映画ですが、たまたま訪れたとある街の映画館でたまたま上映されていて、ふらっと見た映画でした(まだ学生でした)。
    私も、中島ひろ子は好きな女優です。
    その頃の事をいろいろと思い出しました。

  2. shotamさん、お越しくださり、ありがとうございます。
    小田さんの自伝的なストーリーと、構成の妙がうまくマッチして、映画2作目とは思えないほど、いい出来だったと思います。
    3作目はもうないのかなあ。これで、作りきった感じはしますけどね。
    中島ひろ子の確かNHKの2時間ドラマで主役をしたものがあって、それが彼女との出会いです。
    そのドラマのタイトルが思い出せないんですよね。
    ご存じですか?
    ではでは。

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