別れは新しい出会いのために

実は12年間勤めた職場を去り、新しい場所へ異動することになった。
今日は最後の日だった。
12年間…
本当に長かった。
荷物を整理していると、ここで過ごした年月の思い出が、ぐるぐる頭の中を回って。
懐かしさで胸がいっぱいになって、古い書類を読みふけったりしていた。
結局、最後の日も勤務時間を過ぎても職場に残ってしまって…
同僚にお礼の挨拶をして
駐車場の桜を見上げると、蕾が膨らんでいる
この12年間、毎年春になると、満開の花を見上げていた桜だ。
4Chu No Sakura
まるで、新しい職場への期待と不安を、その中に孕んでいるかのように…


この12年間は、僕にとって人生の一番大きな出来事が連続したときだった。
赴任したのが30歳になったとき、そして結婚、3人の子供が生まれ、子育てに追われつつも、仕事も精一杯がんばった。
担任したクラスは11クラス、ホントいろんな子どもたちに出会った。
行事が大好きな僕は、文化祭になると子どもたちと一緒に、企画を立て、時間を忘れて打ち込んだ。
ステージにバンドを持ち込んだり、しかも決して文句が出ないように、完璧な演奏になるまで仕上げて(このとき、ドラムを叩いた子は、今やT-SQUAREのドラマーだ)。
ドタバタ劇が中心だった中に、初めてダンスを持ち込んだのも、記憶に間違いがなければ、僕のクラスが最初だった。
しかも、よさこいソーランを取り入れたのは、僕のクラスだけだ(歌も歌わせてもらいましたが)。
あと、和太鼓をやったり
教室で夜店を再現したこともあった。
ヨーヨー掬いに、ザリガニ釣り…
みんな法被を着て雰囲気を盛り上げて。
教室にビールケースで舞台を作って、劇をしたこともあった。
あのときは、そういう創意工夫が認められる、いい職場だった。
極めつけは、運動場に教室4個分の巨大迷路を作ったこと。
仕上げるのが大変だったが、最後は多くの先生たちが手伝ってくれた。
確かに眉をひそめる人もいたけど、認めてくれる人もまたたくさんいて、みんなで完成を喜び合ったもんだ。
こんな風に精一杯やってきたつもりだったけど、ある時管理職に言われた言葉…
「朝に育児時間を取っている君に、やってもらう仕事はない。重要な仕事は任せられない。若いときから重要な仕事をしなければ、やりがいはないんだけどな」…
…あのときの悔しい気持ちは、今でも覚えている。
うちは妻が忙しく、どうしても家事の分担は避けられない。だけど、そういう男は、仕事人としては半人前ということか。
家のことをパートナーに任せて、仕事に打ち込める男の同僚が妬ましくてならなかった…
でも、その分、女性の立場が実感できた。思い返せば苦しいとき、僕を支えてくれたのは女性の同僚だった。
家庭と仕事、両方やるのは昔から当たり前。
男が仕事で、女は家庭、というのは、高度経済成長の時に、権力が国民に洗脳したこと。だって、その方が企業は都合がいいから。
農民が大部分だった時代、共稼ぎが普通だった。
振り返れば、あのとき僕は罠にはまってしまったと思う。
管理職を見返すために、育児時間を返上し、担任と進路担当と成績処理と、あらゆる仕事を抱え込んで走り続けた。
その結果、過労で倒れて、1ヶ月半の病休…
病院からの帰り道、しばらく働けない自分が情けなく、妻が運転する車の助手席で男泣きに泣いた。
このことが僕の生き方の大きな転換になった。
がんばらないで、ゆっくり生きる。
SLow is beautiful
本当に大切なものは何か、このときにわかった気がする。
病休の時に、念願の女の子が生まれ、へその緒を切るという体験もした。
あのときの、ざくっという感触は、今もこの手に残っている。
命の誕生の場面に立ち会い、この与えられた生をもっと大切にしたいと思った。
僕が休んでいる間、いろんな生徒が心配して、訪れてくれた。
もちろん、同僚もたくさん。
多くの人たちの支えを実感して、僕は職場に復帰することができた。
再び働けるようになった喜びを、僕はいつまでも忘れないだろう。
最後の3年間は、正直しんどい期間だった。
自分の厄とも重なり、体の曲がり角も実感し、昔のように無理が利かない自分に歯がゆさを感じつつも
でも、途中で投げ出さず、卒業式までやりきれたよかった。これは、途中で去ったものにはわからない充実感だろう。
出会った君たちへ
先生も4中を卒業します。
最後の日はなかなか立ち去りづらく、思い出の場所を歩き回っては、写真に納めていました。
先生の30代全てを捧げたこの学校を、心から愛しているし、誇りに思っています。
そして、君たちに出会えたことに感謝しています。
僕を教師として育ててくれた君たち一人一人に
本当にありがとう
一つだけ心残りなのは、中庭の隅に埋めたタイムカプセルを、掘り起こす約束を果たせなかったこと…
あの時のみんなが集まるのはなかなか難しいけど、先生はまだ同じ街にいるから、近いうちに掘り起こそう。
また、連絡ください。
今度は5中で、新しい子どもたちと新しいことに挑戦したいと思っています。
先生の携帯のメールアドレスは絶対変えないので、たまに思い出したら連絡ください。
別れは新しい出会いのための、優しい痛み…
さあ、明日から新年度。
お互い、新鮮な気持ちで、新しい生活を楽しんでいきましょう。
ええかげんに、わがままに、ね(^^)

6 個のコメント

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  1. Haruさん、ひとまずお疲れさまでした。そして新年度からは新たな職場で充実した時間を過ごされるよう心から願っております。
    12年は長いですね。友人に中学教師が数名いますが中でも親友は子供を2人出産するまで所謂「若い女の子」扱いをされて担任を決して任せてもらえなかったそうです。でも管理職や年配の先生方、父兄との様々な葛藤を経て今や貫禄十分な教師になっています。色々な風が吹いている教育現場で何よりHaruさんご自身が素敵な時を刻まれてきたこと、そしてこれからも新たな時を刻んでいかれることをBlogを通じて少しだけ覗かせてくださいね。

  2. 今晩は,ご無沙汰致しておりました。。
    +Lhacaです。でも,ちょっとした心機一転で,「とし」というHNになりました。
    ログ,拝読させて頂きました。
    12年。
    公私ともに・・教師として,家庭人として
    本当に語り尽くせない日々でしたのでしょう。
    我が身と,そして主人と重なるところがたくさんあって,
    何とも申し上げられませんが・・お疲れ様でした。
    そして,新任地でのご活躍御祈念致します。
    SLow is beautiful
    とっても素敵な言葉ですね。。

  3. ■いくつかの門出に

    こうして,インターネットでお知り合いになれた方達とのつながり。 表向きはbitでデジタルな交流手段であれ, HNだからこそ,そっと語れる心根。 その表現に滲むそ…

  4. >のりこさん、お越しくださり、ありがとうございます。
    風邪の方はどうですか?
    かわいいお子様にうつさないよう、ご自愛くださいね。
    さて、のりこさんがお書きのように、中学校では特に女の人がつらい思いをしますね。男性社会なんで。小学校なら、女性の方が多いので、また違うかもしれませんが。
    僕の周りでは、子育て真っ最中の女性は、たいてい担任からはずれていますね。そういう意味では、僕は担任をさせてもらえただけでも、幸せかもしれません…。
    でも、今振り返ると、子育てに追われた時間も、自分の教師としての力量になっていると思います。何よりも、保護者の気持ち(特に母親)が、よくわかるようになりました。
    >としさん、こちらこそご無沙汰しております。
    お互い仕事柄、この時期は特別な気分になりますね。
    今日、新しい職場に初めて出勤しました。でも、知り合いばかりで(小さい街なんで)、なんか昔に戻った懐かしい気分になりました。
    でも、小規模校なので一人一人の仕事量は多く、大変な感じです。
    今年は担任をはずれて、また違った視点で学校教育を考える機会を与えてもらったと思っています。
    まあ、教師の数が少ないので、担任をはずれてもすることはたくさんあるし、ぼんやりしている暇はありません。
    自分らしく、無理せず、ぼちぼちいこうと思います。
    まあ、今年はもう少し、自分の子どものことを振り返る余裕のある年にできたらいいかな(^^)
    ではでは。

  5. 遅ればせながら、先生、お疲れ様でした。
    あと1年務めていてくださってたら、僕が教育実習に行った際にお世話になっていたかもしれなかったのですが(笑)
    僕が受け持って頂いたのは、もう7年も前のことになるんですね~(笑)
    小学校を卒業しながらも、まだ小学生気分が抜けていなかった僕に優しく、でも時には厳しく教えてくださったことは、間違いなく僕の現在に繋がっていると思いますし、今後にも繋がっていくと思います。
    本当にありがとうございました。
    新天地でも、頑張ってください!!

  6. 矢野君、返事が遅くなってごめんなさい。
    ようやく新しい職場にも慣れてきました。教師って不思議な仕事で、新しい子どもたちと出会うと、もうその子たちのことで頭がいっぱいで、昔のことをほとんど思い出さなくなります。
    また、いい出会いを作っていきたいと思っています。
    そうですか、今年教育実習ですか。
    自分の教えた生徒が、同じ仕事を目指してくれることは無上の喜びです。
    もう僕が4中にいないことは残念ですが、いい先生がたくさんいるので、しっかり学んでください。
    それでは、また。

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